「29歳で結婚したのですが、主人の転勤で口之津に引っ越すことに。すぐに長男を妊娠、出産。しばらくはそれどころじゃなくて、欲しいものがあっても自分でつくれないことがありました。口之津で2年を過ごし、長崎市内へまた転勤。その後、福岡へ。若い頃、「転勤族とは絶対結婚しない!」と思っていたんですけど、人生って不思議ですよねぇ(笑)。福岡へ引っ越して、佐世保時代の親友と再会したんですが、その時、彼女はちょうど臨月で。私、自分が出産した時、何でも入って便利でカワイイ、マザーズバッグが欲しかったんですね。カワイクて機能的、というモノが当時はなかなかなくて。それで、親友には自分が欲しかったバッグをつくってあげよう!と、手づくりしてプレゼントしました。趣味とはいえ、自分なりに丁寧につくり上げていたんです。そしたら、すごく喜んでくれて(笑)。「これはもう趣味で人にプレゼントするだけではなくて、売りなさい。売った方がいい」と勧めてくれたんです。その頃は、作家ブームの兆しもあり、福岡では「1day shop」という作家さんが集まっての販売イベントも盛んでしたので、まずは「1day shop」に参加することにしました」。
心を込めてつくったマザーズバッグは、親友の感動を生みました。その親友の後押しもあって、「つくった物を販売する」という作家活動をスタートさせたcico*ruruさん。イベントに参加するたびにファンを増やし、リピーターを獲得していったのです。
「自分がつくった物を、売って利益を得る、という経験はこれまでに味わったことのない喜びでした。私は今も、ショップなどへの委託販売をせず、イベントなどで自分の手からお客様に販売しているんですね。その理由は、たとえば、このがま口ですけど、小銭を出す時に中のキレイな柄が見えるようにと中地を選んでつくりました。この小さなハサミと革のケースは、値札を取る時とか、女性ならちょっとした時にバッグの中にハサミがあると便利でしょ?革小物を手縫いする時には、縫い穴を1つ1つ空けて縫い上げるんですけど、そういうことは物を見ただけでは伝わらないですよね。ちょっとしたことですが、私がどんな想いで、どんな工夫でつくった物なのかを、お客様に伝えたいし、その私の想いを受け止めてくれるお客様の姿を見たいんですよね。だから委託販売はせず、お客様と交流できるイベントで販売するようにしているんです」。
cico*ruruさんは「私がつくったもので、ときめいてもらえたら嬉しいですし、私の作品を見て、喜んでくださる姿を見たい」と言います。福岡という作家が多い都市の中で、様々な工夫と、心を尽くすこと、つくり手の顔が見える販売方法で差別化をしていきました。
“手づくり”というと、どうしても自己満足のレベルに留まってしまいがちです。cico*ruruさんは“手づくり”ではなく、“手しごと”という1ランク上のクオリティを目指しています。タグや、ちょっとしたワンポイントのロゴマーク、焼き印など、作品をブランド化する手間を惜しまないのです。そうしたcico*ruruさんの姿勢は、つくり出す作品に個性となって現れ、瞬く間に人気作家の仲間入り。1day shopに参加するようになって数ヶ月後には、テレビで取り上げられるほどになりました。
「テレビの影響力はすごかったです。私の作品を紹介してもらって、電話番号がテロップで出た瞬間から電話が鳴り止まなかった(笑)。ずっと、「テレビに出ていたアレが欲しい」という注文の電話が殺到しましたね。オンエア後のイベントはさらにすごくて、私のブースを囲むように行列ができたほど。今から6年前の話ですけど、その頃のお客様は今でも足しげくイベントに来てくださいますし、ほとんどの方がリピーターになって下さってます」。
趣味から始まった作家生活。cico*ruruさんは自身がつくる小物を「商品、製品」とは呼ばず愛情を込めて「作品」と呼びます。物づくりを単なる「仕事」と割り切ることはせず、ひとつひとつに心を込めてつくり上げるからこそ「作品」なのです。そのため「1人」でつくることに、強いこだわりがあるそう。
「私の場合、1人でつくらないと意味がないんです。デザインを考え、ひとつひとつ穴を空け、ミシンを使わず自分で縫う。どんな思いでつくったか、私の作品を手にしてくれたお客様に、その思いを伝えるまでが、私の仕事だと思っています」。
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